漫画「累 -かさね-」を全巻読んだので感想と考察を書いていきます。
ネタバレなしの感想は「人間の負の感情の描き方が上手で、読み応えのある面白い漫画」という感じ。
私は手塚治虫さんなど古い漫画も好きなのですが、どこかそういった時代の匂いを感じる作品でした。
ここからはがっつりネタバレしていくので、まだ読んでいない方は先に進まないことをオススメします。
漫画「累 -かさね-」の感想 イチカ&五十嵐幾編
この記事では累のお話をイチカ&五十嵐幾編(単行本1巻)、丹沢ニナ編(単行本1巻~6巻)、咲朱編(単行本6巻~11巻)、累編(単行本11巻~14巻)に分けて感想を書いていきます。
※これは公式の分け方とかではなく、私が勝手に分けているだけです。
イチカ&五十嵐幾編は序章のような感じ。短編を2本読むくらいの感じで読めますが、この時点で私にはがっつりハマりました。
ここで「お、この漫画おもしろい」と思えなければ、もう続きは読まなくても良いと言えるくらい、「累 -かさね-」のエッセンスが詰まっています。
第一話では伝説の女優と呼ばれた淵透世の娘の累の悲惨な状態と、キスをして顔が入れ替わるところまでを描いて、見事に続きが気になる引き。連載モノの漫画ではやっぱり続きが気になる終わり方って大事だよね。
高校時代のお話は少し小学生時代に近いストーリーになってしまうので、気が早い人は「あ、こんな感じで顔を入れ替えて一つずつ演劇をこなす、完結型の話なのかな」と思ってしまうかもしれませんね。
まあ実際はその後からが本番という感じですけど。
見た目のコンプレックスって男女問わず持っている人は多くて、累ちゃんほどではないにしても、「もっと目が大きくなりたい」とか「鼻が小さければ」とか「モデルさんみたいな体型になりたい」とか一度は考えたことがあると思うんです。
身近なテーマだからこそ、心に刺さりやすく、その究極系である累ちゃんに感情移入しちゃうんですよね。
そして私が良いと思ったポイントは主人公の累ちゃんがめっちゃ良い子ってわけじゃなく、わりと屈折しているところ。これは結構おもしろいですよね。
私の好きな漫画ナンバーワンは今も昔も「デスノート」なんですが、これもダークヒーロー作品です。ただの悪役主人公ではなく、悪いこともするけどその行動や考え方に共感できる部分も多いところは累と似ています。
累はキャラデザインも含めて本当に魅力的なキャラクターとして描かれていると感じました。
あとブスな子が屈折してるのは結構リアルでも多いと思うし、幾先輩みたいに顔も心も美しい女性も意外といると思うんです。
だって顔のせいで差別を感じたりすることって、イジメとかみたいに重いものじゃなくても多いですよね。
「私には話しかけないくせにあの子には笑顔で話しかける」とか「俺のいうことは聞かないのにあいつの言うことは聞く」とか。
そこから妬みや劣等感を抱いて、性格が曲がっていくことは大いに考えられるし、そういったものを知らずにみんなからチヤホヤされて育った美人さんは心が純粋だったりするもの。
そういう意味ではすごくリアルに感じられて、「累 -かさね-」のキャラクターはとても好きです。
漫画「累 -かさね-」の感想 丹沢ニナ編
ここからはメインキャラクターの羽生田さんが出てきて、読んでいる側としては一安心でした。
口紅や淵透世の情報源になり、累の協力者となり、読者への演劇の解説役となり、たまに息抜きのギャグを挟んだり・・・まあ便利なキャラクターが登場してくれたおかげでストーリーを展開させやすくなりますよね。
そして丹沢ニナの登場です。これまでのイチカちゃんや幾先輩とは異なり、口紅の秘密を知った上で累と協力関係を結ぶ重要人物。このニナもとても良いキャラクターでしたね。
3巻の最初の方で植物状態になり、6巻ですでに死亡するのですが、最後の最後まで忘れない存在感がありました。「みんなの記憶に残りたい」というのが彼女の願いですが、少なくとも私にとってはすごく心に残るキャラクターでしたよ。
累ちゃんとニナで烏合さんを取り合う恋愛展開も良かったですね。色恋の話もしっかりダークに描いてくれるから見ごたえがあります。
実写映画はこのあたりの話が主軸になっているんだと思いますが、上手くやればかなりおもしろいでしょうね。
個人的に一番好きなのは丹沢ニナ編なんですが、ストーリーのスピード感が早いんですよね。ニナと協力関係を結ぶ→丹沢ニナが女優として成功する→ニナが植物状態になる→本人になりすます→ニナ母に怪しまれるから騙す→義母妹の野菊が登場→野菊と仲良くなる→野菊に顔を奪っていることがバレる→野菊がニナを殺すって感じで、どんどん進んでいきます。
もちろんその間に累ちゃんの心情の変化があったり、最後に大事な役割があるニナ母と野菊の交流があったり、雨野さんとの恋愛があったり濃い内容を綺麗にまとめていました。
漫画「累 -かさね-」の感想 咲朱編
丹沢ニナ編が盛りだくさんだったぶん、咲朱編はじっくりと話が展開していきます。まあ基本的には野菊の復讐の話がメインですよね。
ただ累ちゃんを殺すだけの復讐なら一瞬で終わるんですが、累ちゃんに死以上の苦しみを味わわせるためにかなり回りくどい作戦を取ります。
この戦いがまた見応えがあるんですよね。野菊は天ヶ崎さんと協力して累ちゃんを完全に出し抜いていましたし、その上をいく羽生田さんも見事。羽生田さんはニナ母を追い詰めたときもそうですが、かなりの知略家で見ている方はおもしろいですよね。
野菊の復讐が失敗に終わった後は、誘の過去のお話があります。これまで断片的に出てきたものが、ある程度繋がっていく感じ。
そして幾先輩の再登場と天ヶ崎さんの活躍によって野菊は救出されます。この後から累ちゃんは顔を失ったこと以上に悩むことになります。
これまでは美しい顔を奪って舞台に立つことが、自分を表現する唯一の方法だったのですが、どんなに他人の顔を借りて演じたところで自分は自分でしかないということに気づいてしまうんです。
「累 -かさね-」は美醜が大きなテーマですが、ここからはアイデンティティ(自己同一性)というのもテーマとして掲げられます。
漫画「累 -かさね-」の感想 累編
漫画「累 -かさね-」は全体的によくまとまっていると思いますが、個人的に不満点が多いのはこの累編です。
虚構を演じ続けた累が素顔で舞台に立ち、ニナでも咲朱でもない淵累として宵役を演じてようやく自分の居場所を見つけ、しかしそのときには自分自身を奪われているという因果応報の結末、内容としては素晴らしいと思います。
ただストーリーのペース配分がイマイチかなって感じ。
累がなぜ自殺を思いとどまったのか、川で何を言われたのかなどがわからないまま、単行本二冊分くらい引っ張ります。その間に「暁の姫」が公演できなくなったりするんですが・・・ちょっと長く感じました。
というか、累が素顔で舞台に立つ、「宵暁の姫」の方にもっと尺を使ってほしかった。
別に「暁の姫」の練習をしていたシーンがおもしろくなかったというわけではないのですが、そこが長かった分、「宵暁の姫」がものすごく急ぎ足で物語を終わらせたように感じてしまったんですよね。
もっとじっくり練習、初日、二日目が上手くいかない様を描いて、千秋楽でスタンディングオベーションを受けて、素顔の累が認められて・・・。究極のカタルシスを得たかったんですけど・・・物足りない、というかもったいない感じがしました。
そして結末の急展開を予想できた人は果たしているのでしょうか?笑
ニナ母が累を殺して永久交換・・・しかも永久交換は顔だけではなく全身を入れ替える。すごくおもしろい結末ではありましたが、これももう少し話数を使って描いて欲しかったかな。
累編で「やられた!」と思ったのは川で死んだのが透世だったという入れ替わり。口紅の設定があるから入れ替わりで読者を騙すトリックが使えることは想像できるのですが・・・ここで逆になっているのはまったく予想していませんでした。
非常におもしろい展開でしたが、もう少し解説が欲しかったかも。透世と誘が仲直りして、脱出する計画を話すシーンとかがないと、イマイチどういう流れで誘が地下に残って、透世が累ちゃんを連れて逃げようとしたのか理解ができませんでした。勝手に脳内で補完しろよって話なのかもしれませんが。
ラストの一コマは羽生田さんが丹沢と書かれた表札の家を訪れるシーンでした。この後どうなるのか、色々想像させる終わり方でおもしろかったですね。
個人的には羽生田さんがニナ母の中身が累ちゃんであることに気づいて、また2人で組んで演劇をやってもらいたいなと思いました。新人女優のおばちゃん(前科持ち)が彗星のごとく現れて、伝説の女優の名をほしいままにしていく、なんてストーリーが一番ハッピーエンドなのかな。
まあ累ちゃんに感情移入して読んでしまっていたので、やっぱりニナ母に許してもらって、淵累として演劇を続けていくっていうのが本当は一番望んでいた展開なんですけどね。羽生田さんも「アイディア湧いて仕方ないんだ」って言ってたし。
はあ、累ちゃんに幸せになって欲しかった。・・・でも最後まで楽しませて頂きました。
美しさと醜さをテーマにし、入れ替わりの設定がある名作漫画は他にもあります。「累 -かさね-」が面白かった人にはこちら2作品もオススメです。
以上、「漫画「累 -かさね-」を全巻読んだ感想と考察【美しさと醜さと私】」でした。
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